ようやく真打登場ということか。
デール・アーヤー、ドゥルスト・アーヤーDer Aya Drust Aya 「遅れてきたが、正しく来てくれた」
"Though He came late, He came right."
6年来、日本公演が叶わなかったバダル・アリー&バハードゥル・アリー・カウワーリー楽団。
今回はパキスタン・ジャパン・フレンドシップ・フェスティバルが自ら指名して来日が実現する。
来日メンバーの四人はみな血の繋がった四人兄弟、生粋のカウワーリー楽師の家柄である。
㏠24時間、お家芸の修練だけに時を費やせる、生まれついての職能プロ楽師である。
インド古典音楽を、カウワーリー独自の表現法・聴衆の扱い方を身につけた芸能民である。
古典声楽、ガザル歌謡、哀歌、民謡、映画挿入歌など何でもござれの万能歌手でもある。
彼らが踏襲するパンジャーブ様式のカウワーリーは「情熱的表現」が特徴であるといわれる。
そして良くも悪しくも聴衆を熱狂的な法悦境に誘導するトランス装置であるともいわれる。
カウワーリーは激しく頭を振り、回転し、痙攣し、お札の花吹雪を舞わせて楽しむものか?
しかしこれだけではステレオタイプ的な評価であるといわざるをえない。
カウワーリーは、聴衆の求める宗教的・娯楽的な音楽を舞台ごとに主導する役目を担う。
修道者の内面で、詩と旋律とリズムの妙から臨神体験をさせる宗教的なカウワーリー
祝時・慶事において参加者を喜ばせ、幸せに踊らせるエンターテイメントのカウワーリー
聴衆の需要に応じて多種多様なトランス状態を創出した後、現実に戻す司祭役を果たす。
『マヌ法典』には教職や司祭職につけず、「歌舞音曲の人」となったバラモン階級の記述がある。
聖句の暗記、正しい詠唱法の習得、祭礼の主導など、バラモンが特権的に行ってきた慣習。
カウワールを含め楽師カーストに属する人々は、ヴェーダを「音楽」に替えてそれを実践している。
社会的地位の低い彼らは、聖俗の行事に不可欠なマレビトとして、一目置かれているのだ。
ステージごとに、聴衆の好みの傾向ごとに同じ歌でも全く違う展開をみせるカウワーリー
激しい歌もゆるやかな歌も、喜びの歌も悲しみの歌も変幻自在にこなすカウワーリー
「鐘を打つ人追い出して!待ちに待ってた愛しい人が来た」と歌うカウワーリー
待ちに待っていたバダル・アリー&バハードゥル・アリー・カウワーリー楽団を楽しんでいただきたい。
主宰・聖者の宮廷講 村山和之

出演
バダル・アリー&バハードゥル・アリー兄弟楽団
パキスタンの古都ラホールを拠点に活動するカウワール(カウワーリーに特化した職能的音楽家)。2012,2013,2019年に次いで4度目の来日。

バダル・アリー
Badar Ali
楽団長・主唱者

バハードゥル・アリー
Bahadur Ali
副唱・ハルモニウム奏者

ワッカース・アリー
Waqas Ali
タブラー奏者

ムハンマド・シャーヒド
Muhammad Shahid
合唱・手拍子

村山和之

諸大学での非常勤講師。南・西アジア文化照光会議議長。
パキスタン南西部バローチスターン地方を対象とした言語・民俗文化研究者。
パキスタンのカウワーリーは、メヘル・アリー&シェール・アリー兄弟楽団(2004年)、ファイズ・アリー・ファイズ楽団(2006年)、バダル・アリー&バハードゥル・アリー兄弟楽団(2012年、13年、19年)の紹介を務める。
「カッワーリーの現在地--インド・パキスタンのイスラーム神秘主義歌謡」『和光大学表現学部紀要(7)』(2006年)、『旅の指さし会話帳75 パキスタン(ウルドゥー語)』情報センター出版局(2007年)ほか多数の論考あり。
サラーム海上 (8/6公演)
